- 「静止膜電位」に関する基準値
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静止膜電位 -90 〜 -70 [ mV ] 細胞内ナトリウムイオン濃度 [ Na+ ] 10 [ mmHg ] 細胞外ナトリウムイオン濃度 [ Na+ ] 142 [ mmHg ] 細胞内カリウムイオン濃度 [ K+ ] 150 [ mmHg ] 細胞外カリウムイオン濃度 [ K+ ] 4 [ mmHg ]
今回は「静止膜電位」について解説するよ!
…せ、静止膜電位…ですか?
あまり聞き馴染みのない言葉ですね。
どういったものなんでしょうか?
静止膜電位とは、一言で言うと
活動状態に無い細胞の内外での電位差のこと
だよ!
もっと簡単に言うなら
動いていない細胞の内側と外側でどのくらいの電気的な差があるのか
ということを表す言葉なんだ。
動いてないのに電気的な差があるんですか?
なんか不思議な感じですね。
いい着眼点だね!
細胞はこの静止膜電位を維持するために大量のエネルギーを使っているんだ。
この静止膜電位の形成は、生命活動の基盤を作る極めて重要なシステムなんだよ。
静止膜電位はそれ単体で考えることはあまりないけれど、生体の仕組みを考える上で色々なことを理解し易くなるから、勉強して損はないよ。
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静止膜電位とは
静止膜電位とは、
活動状態に無い細胞の内外での電位差のこと
です。
この説明だけでは、流石に分かりにくと思うので、
「膜電位」とは何か
というところから解説します。
膜電位とは
細胞を内と外に分けた時、
内側を「細胞内」
外側を「細胞外」
と言います。
細胞内と細胞外では含まれているイオンの分布が異なるという特徴があります。
[ mEq / L ] | 細胞外液 | 細胞内液 |
ナトリウムイオン [ Na+ ] | 142 | 10 |
カリウムイオン [ K+ ] | 4 | 150 |
カルシウムイオン [ Ca2+ ] | 2.4 | 0.0001 |
マグネシウムイオン [ Mg2+ ] | 1.2 | 58 |
塩素イオン [ Cl– ] | 103 | 4 |
重炭酸イオン [ HCO3– ] | 28 | 10 |
リン酸イオン [ HPO42- ] | 4 | 75 |
硫酸イオン [ SO42- ] | 1 | 2 |
タンパク質 | 5 | 40 |
これらの分布と、その細胞内外を仕切る膜の通りやすさにより、細胞内と細胞外の間には電位差が発生します。
この電位差を「膜電位」と言います。
電位差は、陸地でいうところの高低差と考えてください。
坂の上から水を流したら下に向かって流れていくように、電気も電位が高いところから電位が低いところに向かって流れていきます。
活性化していない(興奮していない)状態の細胞内部は、細胞外部に比べて電位的に低くなっています。
この活性化していない状態の電位差を「静止膜電位」と呼んでいます。
静止膜電位はどうやって作られているのか
静止膜電位の形成は、細胞内外のイオンの濃度によります!と、一言で簡単に解説しても全く理解に繋がりませんので、特に重要なカリウムイオンで考えてみましょう。
細胞膜は「脂質二重層」というイオンを通さない膜で出来ており、イオンは自由に通ることができません。
そんな細胞膜で、イオンが通ることができるのが「チャネル」というタンパク質です。
チャネルは細胞膜に空いた「穴」のようなものと考えてください。
この穴を介してイオンは移動しますが、このチャネルにもいくつもの種類が存在し、それぞれどのイオンをどのタイミング、量で通すかということが分かれています。
静止膜電位の形成に関わるチャネルのうち、重要なのは以下の二つです。
・Na+-K+交換チャンネル
・K+漏洩チャネル
※右:K+漏洩チャネル 左:Na+-K+交換チャンネル
Na+はナトリウムのことを、K+はカリウムのことを表しています。
Na+-K+交換チャネルは3つのナトリウムイオンを細胞外に排出し、2つのカリウムイオンを細胞内に取り込むことにより、細胞内外でのカリウムイオンとナトリウムイオンの濃度差を形成しています。
このイオンの移動は「濃度が低いところから濃度が高いところへの移動」であり、通常起こり得ません。
ですが、生体ではこの移動を「ATP」と言うエネルギーを用いることで実現しています。
これを「能動輸送」と言います。
静止膜電位の形成には、まずエネルギーを使用した濃度差の形成が重要です。
K+漏洩チャネルは、カリウムが濃度差によって移動することができるチャネルであり、拡散の原理にしたがって、カリウムイオンは濃度が高い細胞内から、濃度が低い細胞外に拡散していきます。
しかし、細胞外に排出されるカリウムイオンはプラスの電荷を持っているため、カリウムが流入してきた細胞外は少しずつプラスに傾いていき、逆にカリウムが排出された細胞内は少しずつマイナスに傾いていきます。
濃度的に平行になろうとした結果、電気的に偏りができてしまい、最終的に細胞内は約-70mVでカリウムがK+漏洩チャネルによって排出されない拮抗した状態になります。
このような機序で形成された電位差が、静止膜電位になるのです。
簡単なイメージとして理解するのであれば…
ちょうど濃度と電気でカリウムを引っ張りあっているような状況である
と考えてください。
濃度と電気がカリウムを引っ張りあった結果、その両者が釣り合うのが-70mV付近になるわけです。
この流れでいくと、他のイオン(ナトリウムイオン)も静止膜電位に関与しているように感じますが、他のイオンにはカリウムイオンのような濃度差によって通過できる量が少ない(膜透過性が低い)ため、静止膜電位はカリウムイオンに大きく依存しています。
ちなみに、このとき発生した電位差を求める式を「ネルンスト式」と言い、少し難しいですが計算することも可能です。
興味のある方はトライしてみてください。
まとめると
つまり、静止膜電位は…
・活動状態に無い細胞の内外での電位差のこと
・静止膜電位の形成には「Na+-K+交換チャンネル」と「K+漏洩チャネル」が関わっている
・静止膜電位はおおよそ「-70mV」である
と言うことですね!
その通りだね!
これで静止膜電位に関してはバッチリだね。
また分からないことがあったら遠慮なく聞いてね。
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