- 「浸透圧」に関する基準値
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晶質浸透圧 約 300 mmol/L H2O 膠質浸透圧 25〜30 mmHg
今回は「浸透圧」について説明するよ!
学校の生理学で出てきましたね…
でも現場であまり使うことないですよね?
そんなことないよ!
医療の現場は「浸透圧」で溢れているんだよ。
特に輸液療法などではとても重要なんだ!
輸液に関わっているんですか!?
生理食塩水の輸液なんて、日常的に行ってますよ…
いったい浸透圧はどういう意味なんですか?
浸透圧は、
一方の水が膜を介して、もう片方の水を引っ張る力のこと
という意味だよ。
あまりピンとこないですね…
大丈夫!
しっかり理解できるように、ゆっくりと解説していくよ!
\ 「浸透圧」を学ぶなら、まずこの一冊! /
浸透圧の意味
最初にしっかりとした意味の確認をしておきましょう。
浸透圧とは、
多くの物質が溶けた水から、半透膜を介してより少ない物質が溶けた水の方に、水分子が拡散するのを防ぐのに必要な力
のことです。
逃げ出したくなった方は、ちょっと待ってください。
一緒にゆっくりと噛み砕いていきましょう。
「浸透圧」を理解しよう
人体は約60%以上が水で出来ているという事は、なんとなく聞いたことがある人が多いのではないかと思います。
この身体の主要物質とも言うべき水が、身体のどこに分布するのかを決定する因子の一つこそ、浸透圧です。
では浸透圧についてイチから見ていきましょう。
浸透とは
浸透圧を理解する上で、「浸透」とは何かということを理解出来ていないと始まりません。
まずここに墨汁を用意しました。
この墨汁を透明な水が入った水槽の中に入れると、水は次第に黒く染まっていき、最終的は水槽全体が黒色になります。
この均一に黒くなる現象を、拡散といいます。
拡散は食塩などが水に溶けた場合でも発生します。
では、この拡散の知識を踏まえて、次のような場合を考えてみましょう。
片方は純水、片方は塩水である水槽の中心を、塩水の中の「塩」だけ通さない壁で仕切ります。
水はこの壁を通ることができるとしましょう。
すると、段々と塩が入っている方の水が増えていき、逆に純水は水が減っていくという不思議な現象が起こります。
これは、壁を通して純水が塩水の方に移動した結果です。
この水の移動を「浸透」といいます。
浸透圧とは
「浸透」によって水が移動するということを説明しました。
では、何故このような不思議な現象が起こるのでしょう。
その秘密は、水の中に溶けている 物質の濃度差 にあります。
今回の例でいくと純水と塩水の、塩の濃度差がこの現象を引き起こしています。
純水と塩水を先程の壁で仕切った時、塩は拡散しようとしますが、壁に阻まれてしまいます。
しかし、どうにか拡散しようとした結果、純水から水を引っ張ることで塩の濃度を純水に近づけようとするのです。
まるで塩が水を引っ張った、という表現をしましたが、「水が拡散した」が正確です。
しかし、浮腫などの話の中で
医療の現場で
「あ、これは水の拡散っすね!」
というと「?」という顔をされるので、
「水が引っ張られてる」
と言う方が伝わります。
浸透は、水を引っ張る側に力を加える事で防ぐ事ができます。
この時、水面を平行に保つのに必要な力を「浸透圧」と言うのです。
浸透圧の働きを知ろう
ここまでは浸透圧とは何か、ということを説明してきました。
少し浸透圧について分かった気になれたと思います。
ここからは、浸透圧が身体と医療にどう関わっているのかを見ていきましょう。
先程から出てきていた2つの水を隔てている「壁」を思い出してください。
この「壁」は正式には「半透膜」と言われており、先ほどの説明でも出たように、
水は通すけど、ある一定以上の大きさの物質は通さない
という性質を持っています。
「半透膜」なんて、あまり日常では見ることがない!
と、と思った人もいらっしゃるでしょう。
しかし、それは大きな勘違いです。
この性質を持つものが、身体中の至る所に存在しています。
それこそが、
血管壁 と 細胞膜
です。
この二つは、身体の至る所に存在します。
つまり、身体の至る所で、先程の塩水と純水と同じような水の引っ張り合いが起こっているのです。
これにより、浸透圧は身体の水分分布を決定しています。
強く水を引っ張るところ(浸透圧が高い場所)にはより多くの水が集まり、水を引っ張る力がないところ(浸透圧が低い場所)は水が取られていくのです。
浸透圧から見る体液分画
ちょっとずつ明確になってきましたね。
でもここからが本当に面白いところです。
少しずつ用語を混ぜていくので、楽しく覚えていきましょう。
体の水分分布のことを体液分画と言います。
体液(体内の水分)がどこに分布しているのかを表す言葉ですね。
体液には、主に次の2種類が存在します。
・細胞外液
・細胞内液
ここで「あれ?」っと思った方もいるかもしれません。
みなさんがよく見たことのある体液、「血液」がここには出て来ないですね。
体の水分は体重の60%以上もありますが、血液は体重の7〜8%ほどしかありません。
つまり、体の中の水分量からすると血液の量は1/10程にしか満たず、この「細胞外液」と「細胞内液」の一部過ぎ無いのです。
毎度のことですが、細かい数値や割合を覚える必要は全くありませんので、どんどん読み進めていきましょう。
では、問題の血液は「細胞外液」と「細胞内液」のどちらに分類されるのでしょうか??
一度考えてみてください。
難しいですね。
大丈夫です、先ほどの図を用いて結論から見てみましょう。
「え、どういうこと?!」
となった方もいらっしゃると思います。
血液は、細胞外液であり細胞内液でもあるのです。
混乱するかもしれませんが、順を追ってみていきましょう。
血液の話をする前に、まず「細胞外液」と「細胞内液」についてしっかり理解する必要があります。
下のイラストを見てください。
どこかで見たことがあるようなイラストですね。
そう、最初に出てきた塩水と純水と全く同じ構図です。
今回は細胞外液と細胞内液を入れておきました。
そして、その二つを隔てる「半透膜」は「細胞膜」と名前を付けましょう。
「細胞膜」は細胞の外と内を分ける壁です。
細胞内で浸透圧を作るのは、主に「カリウムイオン*」で、細胞外では、主に「ナトリウムイオン*」です。
この二つは、先ほどの純水と塩水の説明で言うと「塩」にあたる部分ですね。
ナトリウムイオンは細胞膜を超えて細胞内に入ることがなかなかできず、逆にカリウムイオンは細胞膜を超えて細胞外に出ることは難しいという特徴があります。
この二つのイオンにより水は引っ張り合い、良いバランスで均衡を保っています。
しかし、ひとたびバランスが崩れると、体液のバランスも大きく変わっていきます。
先ほどのイラストを使って考えてみましょう。
同じような力で引っ張っていた二つのイオンの内、「ナトリウムイオン」の量のみが増えたとしましょう。
ナトリウム濃度のみが上がったということですね。
すると、細胞外側の水を引っ張る力が大きくなり、体液はどんどん細胞外液側に流れていってします。
さて、この流れを専門用語で言い換えてみましょう。
「細胞外液のナトリウムイオンの濃度が上昇することで、細胞外液の浸透圧が上昇する。その結果、細胞内液は減少し、細胞外液量が増加する。」
いかがでしょうか。
専門用語ばかりですが、スッと理解出来たのでは無いでしょうか。
もう皆さん、かなり理解が深まってきていると思います。
今であれば下の、全身性浮腫という病態の解説にあたる文章の意味もすぐにわかるはずです。
「全身性浮腫は、腎臓から排泄されるナトリウムイオンの量が減少し、貯えられたナトリウムイオンが細胞外液に移行することにより起こる」
いかがでしょう?
「んー、ナトリウムが出せないのか」
→「じゃあナトリウム濃度が上がりそうだな」
→「ということは、細胞外液量が増えるね」
→「細胞外液量が増えると全身性浮腫になるのか、ふむふむ」
という思考の流れができていれば、ここまでの話は全て理解できています。
さて、いよいよこの章の本題、血液の話を見ていきましょう。
この章で一度お見せした、下の図を見てください。
血管があるということ以外、先ほどまで見てきた構図とほぼ同じですね。
血管壁と細胞膜の最大の違いは、ナトリウムイオンは血管壁を自由に通り抜けることが出来るということです。
ここまでの話を読んでくださった方は、違和感を覚えるかもしれません。
ナトリウムイオンが自由に通り抜けられるということは、血管壁は「半透膜」になっていないように感じます。
これでは、血管壁には細胞外液がなんの影響も受けずに、拡散によって分布しているように見えてしまいます。
しかし、血管内という入れ物の大きさは細胞外液という入れ物の中ではとても小さく、拡散だけでは全身に循環させるために必要な血液量を確保できません。
さらには動脈圧によりどんどんと体液は血管外に漏れてしまうため、何かしら血管内に留める働きがなければ、体液はどんどんと血管外に漏れていってしまいます。
そこで、血管は「独自の浸透圧」を持つことで、循環に必要な血液量を確保しています。
浸透圧の原理を思い出してください。
浸透圧は半透膜を介して、それぞれに物質の濃度差によって発生するものでした。
血管内は細胞外液中よりも「アルブミン」というタンパク質の濃度が高いことで、この「独自の浸透圧」を生み出しています。
アルブミンはナトリウムイオンとは比較にならないほど大きな物質ですので、血管壁を通ることができません。
つまり血管壁は「アルブミン」に対しての「半透膜」になっており、アルブミンによる「独自の浸透圧」により、血管内に体液を留めているのです。
ちなみにこの「独自の浸透圧」は、
「膠質浸透圧」
と呼ばれています。
膠質はタンパク質という意味ですので、
「タンパク質によって発生する浸透圧」ということですね。
それに対して、ナトリウムイオンやカリウムイオンで発生していた浸透圧を
「晶質浸透圧」
と言います。
晶質は膠質じゃないものと考えて頂ければ簡単です。
医療の現場では単に「浸透圧」という言葉が飛び交いますので、どちらの浸透圧を指しているのかがパッとわかるようになると完璧です。
たまに、この分類を理解せずに「浸透圧」を使っている人を見かけますが、そんな方には優しくこの記事を紹介してあげてください。
さて、やっと大枠が見えてきましたね。
ここまでの説明で、体液が細胞外液と細胞内液、(細胞外液の)血液にどのように分布しているのかまで説明しました。
ここで一度、体液が分布する場所それぞれの名称を確認しましょう。
新しく出てくる用語もありますが、今までの分類を土台に名前がついているだけですので、無理に覚える必要はありません。
注目すべきは血液の部分です。
血液中には、赤血球や白血球といった「血球」と、その周りに存在する水の部分である「血漿」が存在します。
血漿は他の細胞外液と大きく組成は変わりませんが、血球は「細胞」にあたるので内部の液体は細胞内液となっています。
この章の初めに、「血液は細胞外液であり、細胞内液である」と言ったのはこのためです。
ちなみに、細胞外液の中で血漿ではないものを「間質液」と言います。
間質液は細胞と細胞の間を満たしている液体のことです。
ここまで理解できたでしょうか。
恒例のイラストにそれぞれの壁で働いている力を記載して整理しておきます。
浸透圧で考える輸液療法
体液が浸透圧によって、どのように分布されるかを見てきました。
最後に、先程までで理解した浸透圧が治療にどう関わっているのかを見ていきましょう。
浸透圧の話をしたときによく出てくる言葉として、
・等張液
・高張液
・低張液
という3種類があります。
この3つの液体をしっかりと理解するために、少し「晶質浸透圧」についておさらいしておきましょう。
「晶質浸透圧」は、細胞膜を介しての体液の移動を決める浸透圧でした。
では下のイラストを見てください。
この細胞外液と細胞内液は、ちょうど浸透圧が釣り合っています。
この平和な環境に、水を加えるとどうなるでしょうか??
結論から言うと、「入れる水の種類によって結果が違う」です。
では入れる水の種類を先ほどの等張液、高張液、低張液に分けてそれぞれ見てみましょう。
等張液を輸液した場合
ではまず、細胞外液、細胞内液と全く同じ浸透圧の液体である「等張液」を入れてみましょう。
一般的に等張液は、水にナトリウムイオン**を入れることで晶質浸透圧を得ています。
基本的に人体に水を加えるのは、血管経由で行います。これを「輸液」と言います。
血管内で保持できる水の量は、「アルブミン」と言うタンパク質によって決まりますので、余分に入れらた水分を血管内に留めておくことはできずに、ほとんどは間質中に流れていきます。
では、このまま細胞内にも「等張液」が流入するのでしょうか?
答えはノーです。
等張液は細胞外液と同じ浸透圧の液体のことです。
それはつまり、水を引っ張る強さが細胞外液と同じと言うことになりますね。
人間が力を合わせて何かを引っ張るのであれば、人数が増えればどんどん力は増していきますが、浸透圧はあくまで「濃度差」により水を引っ張るので、いくら細胞外液の量が増えても細胞内液を引っ張ってくることはできませんし、逆に引っ張られることもないのです。
つまり、等張液を入れた時の体液分画の変化は以下のようになります。
実は輸液したときに「細胞内液量に変化はない」のです。
代表的な等張液は、「生理食塩水」や「リンゲル液」などです。
医療の現場では日常的に見かけるものですね。
これらの薬剤は「細胞外液補充液」とも言われており、その名前の通り、主に細胞外液を補充する目的で使用されます。
高張液を輸液した場合
次に高張液を輸液した場合を考えてみましょう。
高張液とは、細胞外液よりも晶質浸透圧が高い液体のことを言います。
ここでは、高張液はナトリウムイオンにより**浸透圧を得ているとして考えてみましょう。
等張液の時との同じように血管から、ほとんどは間質中に流れていきます。
高張液が間質に行き渡ると、細胞外液の晶質浸透圧はそれまで釣り合っていた細胞内液の浸透圧よりも高くなります。
これにより、細胞外液は細胞内液を引っ張ってくることになります。
結果、細胞外液の量は高張液を輸液した量よりも増えることになり、逆に細胞内液はその分減ってしまうのです。
代表的な高張液は「高張食塩水(3%食塩水)」や「10%塩化ナトリウム」などでしょうか。
これらの高張液輸液は大量に投与すると”「浸透圧」からみる体液分画“の章でも紹介したような、全身性浮腫や、細胞内の脱水に繋がるため、慎重に投与する必要があります。
低張液を輸液した場合
次に、低張液を投与した場合を考えてみましょう。
低張液とは細胞外液よりも晶質液浸透圧が低い液体のことです。
とても分かりやすい低張液は、浸透圧が全くない純水ですね。
低張液を輸液した場合、輸液した液体は血管から間質にほとんど流れていきます。
低張液が間質中に行き渡ると、細胞外液の晶質浸透圧はナトリウムイオンが希釈されたことにより、細胞内液の晶質浸透圧よりも低くなります。
これにより、細胞外液は細胞内液に引っ張られることになります。
結果、輸液した低張液の分布は以下のように全ての体液分画で等しくなります。
ですが、純水のような極端な低張液は医療の世界では「絶対に投与してはならない」禁忌になっています。
ここで、血管内には血球という細胞内液チームに属する領域があったことを思い出してください。
血管内に投与された低張液は、一番近くにある血球にどんどん入っていき、最終的には破壊してしまいます。
これを、血球が溶けると書いて「溶血」と言います。
血球は様々な生命維持の役割を持っている大事な細胞であるため、その血球を破壊してしまう低張液の輸液は禁忌な訳ですね。
細胞内液を補充したい時は?
ここまでの話で、等張液や高張液の輸液では細胞外液にしか水分を送れないと言うことがわかりました。
しかし、細胞内液に水分を供給できる低張液の輸液は「禁忌」です。
では、細胞内液に水分を送ることは不可能なのでしょうか?
結論を言うと、もちろん可能です。
細胞内液を供給する代表的なものは「5%ブドウ糖液」や「50%ブドウ糖液」です。
ニプロ株式会社のブドウ糖注5%「NP」を例に挙げて解説していきましょう。
この薬剤の成分を見ていくと、「浸透圧比」と言う項目を見つけることができます。
これは生理食塩水の浸透圧を「1」とした時の、それに対する薬液の比率を表しており、
浸透圧比1なら「等張液」、
浸透圧比1以上なら「高張液」、
浸透圧比1以下なら「低張液」
と言うことを表しています。
添付文書という説明書には、ブドウ糖注5%「NP」の浸透圧比は「約1」であると明記されており、これは「等張液」であるということを表しています。
では何故、等張液であるブドウ糖注5%「NP」には細胞内液を供給することが可能なのでしょうか?
前提として、ナトリウムイオンやカリウムイオンの濃度差が晶質浸透圧を生み出すとお伝えしてきましたが、この他の電解質や糖質、アミノ酸に至るまでもが実は晶質浸透圧に関わっていることをふわっと認識してください。
「5%ブドウ糖液」や「50%ブドウ糖液」といった薬剤は、生理食塩水のようにナトリウムイオンのみで晶質浸透圧を作り出している**のではなく、ナトリウムイオン**と糖質の晶質浸透圧の合計が細胞外液の晶質浸透圧と等しくなるように作られています。
ナトリウムイオン**が生み出す晶質浸透圧 + 糖質が生み出す晶質浸透圧
= 細胞外液の晶質浸透圧
また、人体には糖質が入ってきた場合、速やかに細胞内に吸収するという性質があります。
このことを踏まえて、ブドウ糖注5%「NP」を輸液する場合を考えてみましょう。
血管内に入ったブドウ糖注5%「NP」は等張液ですので、血球を破壊するようなことはありません。
しかし、ブドウ糖は糖質ですので、速やかに糖質の細胞内への吸収が始まります。
そして、例の如く間質に流れていきます。
すると、どうでしょうか。
血管内に入ってきた段階では等張液であったブドウ糖注5%「NP」は、いつの間にかブドウ糖が吸収されて低張液に変わっているのです。
低張液によって細胞外液が希釈されれば、晶質浸透圧が下がり、細胞外液から細胞内液に向かって体液の移動が発生するのです。
アルブミン製剤を輸液した場合
等張液、高張液、低張液がどのように体液分画に影響するのかを見てきましたが、この三つの液体全てに素通りされていた、血管内にのみ輸液したい場面が医療では多々あります。
一番わかりやすいところで言うと、大量の出血が起こった場面です。
人間は全血液量の30%を失うと死に至ってしまいますので、大量の出血が起こった場合は、速やかに循環血液量を確保することが求められます。
循環血液量とは、血管内にある血液の量を表しています。
では、先に出てきた三つ輸液ではどうだったでしょうか。
等張液、高張液、低張液ともに、投与した後すぐにほとんどが間質へと漏れ出てしまっていました。
細胞外液を補充することは、循環血液量の確保に有効ではありますが、もっと最適な輸液があります。
それが、アルブミン製剤です。
アルブミン製剤は「輸血製剤」の一つであり、人体から取り出された血液を精製して作成されています。
体液分画のところでも説明した通り、アルブミンは血管壁を通ることができず、間質にはアルブミンがほとんど存在しないため、血管内と間質の間で膠質浸透圧を作り出し、体液を血管内に留める働きをします。
つまり、この膠質浸透圧を持ったアルブミン製剤を輸液に使用することで、血管内だけに水分を供給することができるのです。
アルブミン製剤は
「250mlの中に12.5gのアルブミンが含まれる」、
「50mlの中に12.5gのアルブミンが含まれる」
ものの2種類が存在します。
後者の「50mlの中に12.5gのアルブミンが含まれる」アルブミン製剤を、「高張アルブミン」と表現したりしますが、これは高張液ではありません。
高張液とはあくまで細胞外液よりも「晶質浸透圧」が高いものを指します。
「高張アルブミン」の指す”高張”とは、血管壁を隔てて「膠質浸透圧」により間質中の体液を血管内に取り込む力がある、と言うことを表しています。
アルブミンは1gあたりおおよそ20mlの水分を血管内に留めることができます。
ですので、「250mlの中に12.5gのアルブミンが含まれる」ものは、血管内に投与すれば投与した水分を含めて全てが血管内に留まります。
しかし、「50mlの中に12.5gのアルブミンが含まれる」ものは、血管内に入った段階で200mlの水を保持する余力を残しているため、その余力分を間質液から引っ張ってきます。
これが、「50mlの中に12.5gのアルブミンが含まれる」アルブミン製剤が、「高張アルブミン」と言われる所以なのです。
このように、投与する輸液製剤によって、どの体液分画に分布するかが変わってきます。
輸液療法では病態に応じた、輸液製剤の選択がとても重要です。
サードスペースは存在するのか?
浸透圧の話をするときによく聞く話として、「サードスペース」と言う言葉を聞きます。
意味としては、
侵襲によって生じる、体液が貯留する「細胞内」でも「細胞外」でも「血管内」でもない場所
のことです。
このサードスペースと言う表現は、現在ではほとんど使用されません。
細胞内、細胞外、血管内でも無い場所は存在しないと考えられているからです。
しかし、局所的な細胞外液浮腫をサードスペースと表現する文献も見受けられますので、注意が必要です。
この局所的というのは、ここまでで勉強してきた浸透圧による体液の移動とは違った流れで発生します。
詳しくは「浮腫」をご覧ください。
かなり長い内容になってしまいましたが、いかがでしたでしょうか。
ここまで理解できれば、もう「浸透圧」という言葉を聞いた時にはすぐ理解できるかと思います。
もっと詳しく体液がどのように循環しているのかを知りたい方は、近いうちに「リンパ」と「浮腫」についても記事を作成致しますので、そちらも併せてご覧ください。
→完成次第、「リンパ」についてのリンク貼ります
注釈
*正確には電解質、糖質、アミノ酸など
**正確にはNaClのこと。Cl-も晶質浸透圧に大きく関与している。
まとめると
浸透圧とは、
・半透膜を介して、水が拡散する力のこと
・体液分画を決定する重要な因子の一つである
・輸液をする際には、どの領域に水分が分布しているかのを理解しておくことが重要
ということなんですね!
その通りだね。
これで「浸透圧」に関してはバッチリだね!
また分からないことがあったら、遠慮なく聞いてね。
分かりました!
ありがとうございます。
\ 「浸透圧」を学ぶなら、まずこの一冊! /