- 「浮腫」に関する基準値
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アルブミン濃度 約 4.5 [ g / dL ] 血管内の膠質浸透圧 約 21.8 [ mmHg ] 間質の膠質浸透圧 約 8.0 [ mmHg ]
浮腫とは
ざっくり説明するのであれば、「浮腫」は
普段はない量の水が皮膚の下に溜まっている状態
のことです。
立ち仕事が多い女性が、
「足が浮腫(むく)むわ〜」
と言っているのをよく耳にしますが、これも浮腫のひとつです。
では、この浮腫とは何なのでしょうか?
今回は、そんな身近な「浮腫」の原因とその原理を分かり易く、噛み砕きながら解説していきます。
一応の補足ですが、
「浮腫」と書いて「ふしゅ」とも「むくみ」とも読みますが、医療の現場では「ふしゅ」と言うことが多いです。
この記事は以下のような方に向けて作成しております。
・浮腫ってよく耳にするけど、なんの事かわからない
・浮腫はどういうものかわかるけど、原理がわからない
・原理まで勉強したけれど、難しくて理解出来なかった
浮腫の定義
最初に浮腫の定義を確認しましょう。
浮腫は正確には、
組織に体液が過剰となった状態
と定義されています。
難しい表現ですが、少しずつ噛み砕いて行きましょう。
まずここで言う「組織」とは、「細胞の集まり」のことを指しています。
細胞は体を構成する小さな部屋のことですね。
生物はこの小さな部屋の集まりで構成されており、細胞にはそれぞれ内側(細胞内)と細胞の外側(細胞外)があります。
細胞内は体にたくさんある細胞の中のことで、細胞外はそれらの細胞の外側にあたる部分を指しています。
細胞外と細胞内は、ともに体液によって満たされています。
体液は「体の中にある水」と思って頂いて問題ありません。
さて、ここで浮腫の話に戻しましょう。
浮腫は、この細胞外の水もしくは細胞内の水が多くなった状況を言います。
イラストで見てみましょう。
イメージが湧いてきたかと思います。
では、ここまでの説明を踏まえて最後に浮腫の定義をおさらいしましょう。
「浮腫とは、組織に体液が過剰となった状態」
おそらく最初よりは、抵抗なく理解できたかと思います。
それでは、浮腫が何かがわかったところで、その原因を確認していきましょう。
浮腫の原因
浮腫の原因を理解するには、まず「毛細血管濾過」について理解しなくてはなりません。
毛細血管と呼ばれる、血管から細胞に栄養を受け渡す(動脈と静脈が切り替わる)部分では、絶えず酸素や二酸化炭素、水の交換が行われています。
この時、交換されている水がどれ程の量であるか、と言うことを表すのが「毛細血管濾過」です。
毛細血管濾過を決定するのは、以下の二つの要素です。
・濾過係数
・血管内の圧力
一見難しいですが、この毛細血管濾過を決定する因子のほとんどは至って単純です。
例えば、布に入った水を想像してみてください。
この布はしっかりと編み込まれているため、見ての通り少しずつしか水が漏れていません。
しかし、この布がもっとスカスカであればどうでしょうか?
ご覧のように、一気に水が流れ出てしまいます。
この水の布の通り易さが「濾過係数」です。
濾過係数が高いほど水が通りやすく、低いほど通りません。
では最初の状態を思い出してください。
水が少しずつ漏れている状態ですね。
この水は、重力に引っ張られることにより少しずつ漏れていっています。
では、この布を上から絞ると、どうなるでしょうか?
お分かりの通り、さらに水が漏れるスピードは上昇しますね。
この上から絞った時に水に掛かった力が、「血管内の圧力」に相当します。
この二つを血管に置き換えて見てみましょう。
この二つの関係性は以下のようになります。
濾過 = 濾過係数 × 血管内の圧力
この式は、「濾過係数」もしくは「血管内の圧力」のどちらかが増えれば、血管内から出ていく水の量も増えていくと言うことを表しています。
ここで鋭い方は疑問に思ったかもしれません。
「これでは、血管内の水は出ていく一方じゃない??」
その通りです。
最初に「水の交換が行われている」と言いましたが、これでは水は出ていく一方になってしまいます。
実はこの関係性に、一つ隠された要素が存在します。
それが「膠質浸透圧」です。
膠質浸透圧はここでは、
「血管内の圧力」に対抗する力
と理解して頂ければ問題ありません。
厳密には少し違いますが、ここではその理解で問題ありません。
「浸透圧」に関する基準値 晶質浸透圧 約 300 mmol/L H2O 膠質浸透圧 25〜30 mmHg ドクター先生 今回は「浸透圧」について説明するよ! ナース看護師[…]
では、この膠質浸透圧を先ほどの図に書き加えてみましょう。
膠質浸透圧は、「血管内の圧力に対抗する力」でしたので、血管内に水を引き込む方に力が働きます。
この力関係は、一般的に動脈では血管内の圧力が優位になり、静脈では膠質浸透圧が優位になります。
つまり、
動脈側では血管の外に水を押し出す力の方が強く
逆に
静脈側では血管の中に水を引き込む力の方が強い
と言うことです。
血液は、行きしに水を置いていき、帰りに持って帰っていくようなイメージですね。
これを先ほどの関係式に当てははめると、以下のようになります。
濾過 = 濾過係数 × ( 血管内の圧力 - 膠質浸透圧 )
ここで浮腫の話に戻しましょう。
今までの話から、血管での濾過が増えれば血管の外に水が多く出ていってしまうということは理解できたかと思います。
「血管の外に水が多く出ていく」と言うことは、「血管の外に水が増える」と言うことに直結しています。
つまり、浮腫は以下の状態が一つでも発生した場合に生じることになります。
①濾過係数が上昇する
②血管内圧が上昇する
③膠質浸透圧が減少する
足がむくんだ際に「足を上げる」といった対処が取られることがありますが、これは「②血管内圧が上昇する」の対処方法です。
また、これとは別の「弾性ストッキングを履く」という対処が取られることもありますが、これは血管内圧に対して血管外の圧力を上げることで、相対的に血管の中に水が戻りやすい環境を作る、という原理で行っています。
ここまで理解できれば、浮腫の原因はほぼ分かったと言っても大丈夫でしょう。
しかし、これには該当しない流れで発生する浮腫もありますので、追加で解説します。
該当しないのは以下の2種類です。
④晶質浸透圧が上昇する
⑤リンパ管の閉塞
新しい言葉が出てきましたが、両方とも水が溜まってしまう、という理屈に変わりはありません。
一つずつ噛み砕いて見ていきましょう。
まず、④の「晶質浸透圧が上昇する」についてです。
先ほどから出てきている膠質浸透圧は、血管内の圧力に対抗するものでした。
これはいわば「『血管内に』水を留める力」と言い換えることもできます。
晶質浸透圧も「水を留める力」と表現することができます。
では晶質浸透圧はどこに水を止めるのでしょうか?
答えは、「細胞内」と「細胞外」です。
細胞内と細胞外はそれぞれに「水を留める力」を持っており、常に拮抗した状態で水を交換しています。
しかし、どちらかの晶質浸透圧が高い状態になった場合、高い晶質浸透圧の方に水が移動してしまいます。
イラストは細胞外の晶質浸透圧が上昇した場合を表しています。
イラスト中の「Na+」はナトリウムイオンを、「K+」はカリウムイオンを表しており、それぞれ晶質浸透圧に大きく関わっています。
細胞外の晶質浸透圧が上昇すると、細胞内の水は細胞外に移動していき、結果的に浮腫の原因になってしまします。
「浸透圧」に関する基準値 晶質浸透圧 約 300 mmol/L H2O 膠質浸透圧 25〜30 mmHg ドクター先生 今回は「浸透圧」について説明するよ! ナース看護師[…]
最後に、⑤の「リンパ管の閉塞」についてです。
リンパ管は、血管外に漏れてしまった水を回収する、いわばお掃除係です。
リンパ管の目的は、血管外に漏れてしまった水を再び血管内に返すことです。
血管内から漏れた水分は、そのほとんどが静脈側で回収されることで血管内に戻っていきます。
しかし、全ての水が血管内に戻ることができるわけではありません。
わずかですが、少しずつ血管外に水が流れ出ていきます。
この水を回収して血管内に戻しているのが、リンパです。
また、このリンパには予備能があり、先ほど挙げた①〜③の場合に血管外に漏れる水の量が増えた場合にも、ある程度まで血管内に回収することが可能です。
そんな大切な機能を備えたリンパ管が機能を停止してしまうと、たちまち浮腫になってしまいます。
リンパ管は全身に血管のように張り巡らされており、最終的には左肩あたりで血管内と合流しますが、この流れのどこかでリンパ管が閉塞してしまうと、閉塞したよりも末端のリンパ管から回収された水は血管内に戻ることが出来ません。
これが「リンパ管の閉塞」です。
浮腫の種類
前の章で、浮腫の原因については理解できたかと思います。
ここでは、浮腫の種類について解説していきます。
浮腫は水が溜まる部分によって、大きく以下の2種類に分けることが出来ます。
・細胞内浮腫
・細胞外浮腫
詳しい説明は後ほどしますが、具体的なイメージを先に作ってしまいましょう。
このイラストからわかる通り、細胞内に水分が貯留した状態を「細胞内浮腫」、細胞外に水分が貯留した場合場合を「細胞外浮腫」と言います。
細胞内浮腫
ではまず細胞内浮腫について詳しく見ていきましょう。
細胞内浮腫は、主に細胞の代謝システムの機能低下、もしくは炎症により発生します。
「代謝システムの機能低下」は、先ほどの章で紹介した「晶質浸透圧が上昇する」が発生することにより浮腫に繋がります。
具体的には、細胞内のナトリウムイオンを細胞外に排出することが出来なくなることで、細胞内の晶質浸透圧が上昇していきます。
ナトリウムイオンは細胞外の晶質浸透圧を作る主要因子ですので、細胞内に溜まってしまうと細胞内の晶質浸透圧が上昇し、結果的に細胞内浮腫に繋がります。
次に炎症での細胞内浮腫について考えてみましょう。
炎症での細胞内浮腫は「①濾過係数が上昇する」ことによって発生します。
炎症により細胞膜の透過性が亢進することで、細胞膜を介して細胞内に入る水の量を増えることになり、細胞内浮腫に繋がります。
透過性の亢進は、血管濾過係数が上昇すると同じく「水が通りやすくなる」という意味で使われています。
注意して欲しいのは、先ほどは血管濾過係数の話でしたが、細胞内浮腫においては
「細胞膜の透過性が亢進する」
と言う点です。
この二つは明確に違いますので、混同しないように気をつけましょう。
細胞外浮腫
次に、細胞外浮腫について見ていきましょう。
細胞外浮腫は、主に以下の2つの原因からなります。
・毛細血管からの異常な体液の流出
・リンパによる体液の回収異常
前章での①、②、③が原因で発生するのが「毛細血管からの異常な体液の流出」、⑤が原因で発生するのが「リンパによる体液の回収異常」ですね。
これらの原因は、「間質」と呼ばれる部分に水分を貯留させます。
間質とは、細胞外領域であり、血管の外である領域を指します。
ここまでの話では「血管の外」と表現していた部分ですね。
臨床でよく見られる浮腫の多くは細胞外浮腫と考えて問題ありません。
細胞外浮腫はさらに大きく「全身性」と「局所性」の2種類に分類することが出来ます。
基本的に心臓や腎臓などの臓器的な原因があるものや、栄養障害などで生じる浮腫は全身の体液量を増加させるため「全身性」と分類され、逆に炎症による濾過係数の上昇によるものや、リンパ管の閉塞などによるものは特定の部分のみに症状が出ることが多いため「局所性」と分類されています。
詳細な分類は説明すると多くなってしまいますので、割愛させて頂きます。
以下のサイトに分かりやすくまとめられておりますので、興味のある方はご参照ください。
専門用語がたくさん書かれていますが、ここまで説明と合わせれば全ての原因に納得できるかと思います。
まとめ
ちょっと長い内容になってしまいましたが、いかがでしたでしょうか。
ここまで理解できれば、もう「浮腫」と聞いた際にも、原因まで考えられるようになっているかと思います。
現場では浮腫と必ずと言っていいほど遭遇しますので、しっかりとして知識をつけておきましょう。
もっと詳しく体液がどのように循環しているのかを知りたい方は、以下の書籍がおすすめです。
体液に限らず、生理学の基礎を学べる一冊ですので医療人は必携です。