最初に関連する基準値を置いておきます。
個人的には、基準値はググればOKだと思っていますので、頑張って覚える必要はありません。
今は見なくていいよー、という方はスルーしてください。
- 「IABP」に関する基準値
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バルーン容量 30-40ml
※サイズ、メーカーにより異なる
IABP離脱指標 ・収縮期圧>90mmHg
・PAWP(肺動脈楔入圧)<20mmHg
・CI(心係数)>2.2L/分/m2
IABPの補助効果 (心機能の)10-15 %
「ザックリ」説明
ドクター先生!
この前、IABPを使っている患者さんが他の病院から運ばれてきたんです。
すごく大きな機械でしたが、あれってどう言うものなんですか?
IABPは
心臓の働きを助けるための医療機器
だよ!
あれ?機械から出た管は足に入っていた気がするんですが…
足の血管から心臓まで挿入しているんですか?
挿入しているのは下行大動脈と呼ばれる大きな血管までだよ!
体格にもよるけど、心臓の出口からは10〜15cmほど離れた位置だね。
そこでバルーンを、拡張させたり収縮させたりすることで心臓の動きを補助するんだ。
あの機械は先端のバルーンに空気を送っているんですね!
でも心臓の出口の前でバルーンを膨らませるなんて、逆に心臓の動きを邪魔しそうですね。
鋭いね!
確かにただ膨らませるだけでは逆効果になってしまうんだ。
そういったことも含めて、IABPについて詳しく見ていこうか!
「シッカリ」説明
IABPとは
IABPは intra-aortic balloon pumping の頭文字を取った言葉です。
難しく見えますが、そのまま日本語にすると
「大動脈の中を(intra-aortic)」
「バールンで(balloon)」
「拡張させたり収縮させたりする(pumping)」
というとても単純な意味です。
正確な医療用語としての和訳では「大動脈内バルーンパンピング」と言われています。
その名前の通り、下行大動脈と言われる大きな血管でバルーンによる収縮と拡張を繰り返すことで、心臓の補助をする医療機器です。
バルーンは上腕動脈や大腿動脈といった大きな血管から挿入されます。
このバルーンは闇雲に拡張や収縮をさせるわけではなく、心電図や血圧と連動させています。
これにより、IABPは心臓の機能を約10〜15%ほど補助することができると言われています。
IABPはバルーンの収縮と拡張により、循環を維持する助ける働きをするため、「補助循環装置」のひとつに分類されています。
IABP以外の補助循環装置としては「PCPS」や「VAS」などが挙げられますが、この二つはIABPに対して人体への侵襲も大きいため、比較的侵襲が少なく簡単に導入することができるIABPが最も多く利用されます。
IABPの原理
では、血管内に入ったバルーンはどのような原理で心臓の機能を補助しているのでしょうか?
先ほども言った通り、闇雲に血管内でバルーンを拡張させれば逆に心臓が血液を拍出する邪魔をしてしまいます。
心臓が血液を拍出する時にはバルーンを収縮させ、そうでは無い時に膨らませることで心臓の機能を補助することこそが、IABPの基本的な原理となります。
IABPの効果
では、その効果と合わせて具体的に見ていきましょう。
心臓にはザックリと二つの状態が存在します。
収縮して、血液を全身に送り出す「収縮期」と
拡張して、血液を心臓に貯める「拡張期」です。
血液を全身に送り出す収縮期には、下行大動脈に挿入されたバルーンも収縮します。
このことにより、それまで拡張していた分のスペースが空くことで大動脈の圧力が減り、心臓が血液を拍出し易い状況を作ることができます。
このバルーン収縮による心臓の補助を「systolic unloading」と言います。
「収縮した時(systolic)に心臓の負担を減らすよ!(unloading)」
と言う意味ですね。
この効果のことを、「後負荷の軽減」と表現しますが、これは
「心臓の後ろ(出口)の圧力(負荷)が下がること」
ということを難しく言っているだけですので、脳内では「ああ、血液が出し易くなったんだな」と解釈してください。
しかし、後負荷の対となる前負荷の概念は単純に「心臓の前の負荷」と言うわけではありませんので、注意が必要です。
→医療での「前負荷、後負荷」について簡単に解説!
収縮期とは逆に、心臓が血液を溜める拡張期にはバルーンは拡張します。
この拡張により、収縮の時とは反対の原理で血管内の圧力は上昇し、全身に血液が供給され易くなります。
また、心臓に血液を届けている冠状動脈への血流量が増えることも、利点の一つとして挙げられます。
拡張期にバルーンを膨らませることで得られる効果のことを「diastolic augmentation」表現されますが、これも簡単に言うと
「拡張した時に(diastolic)心臓のパワーを増強するよ!(augmentation)」
といった意味になります。
「systolic unloading」も「diastolic augmentation」も、IABPの効果を端的に表してるだけと言うことが分かったかと思います。
特に覚える必要もありませんが、急に言われた時に「え!すごく難しいことを言われた!」と勘違いしないように頭の片隅に置いておいてください。
IABPの効果を引き出すために必要なのが、なんと言ってもこの収縮と拡張のタイミングです。
タイミングがズレていると効果が無いどころか、逆に悪影響になってしまいます。
IABPのバルーンの収縮と拡張のタイミングを合わせる上で、特に重要なのが「大動脈弁」という心臓の出口と血管の入口を繋ぐ部分に存在する一方弁のような構造物です。
最初に「拡張期にバルーンを拡張させ、収縮期にバルーンを収縮する」と説明しましたが、これは厳密には少し違います。
最も適切なタイミングは「大動脈弁が閉まっている時にバルーンを拡張し、開いている時に収縮する」ことです。
心電図や動脈圧によってバルーンのタイミングを合わせる時、この大動脈弁の状態を考慮しながら調節することがIABPの効果を得る上で最も重要です。
IABPの駆動タイミングと効果
心臓 | 収縮期 | 拡張期 |
バルーン | 収縮 | 拡張 |
効果 | ・後負荷の軽減 |
・冠状動脈血流量↑↑ ・平均動脈圧↑↑ |
IABPの適応
IABPが適応となる場合は、以下のような場合です。
・急性心筋梗塞 ・虚血性心疾患 ・心原性ショック ・術後帝心拍出量症候群(LOS) …etc |
適応範囲が広いので省略しましたが、これらは「この疾患にはIABP!」と言った形で覚える必要はありません。
というより覚えない方がいいかも知れません。
不謹慎な言い方にはなりますが、IABPは特定の疾患ではなく、
「血行動態が不安定でこのままでは良くないから、一旦繋ぎとしてIABP!」
という形で導入されることが多いためです。
適応となる疾患を覚えるというよりは、適応となる可能性がある状況を考えておく方が実践的です。
IABPは、それ単体では心臓の完全な補助は不可能であるため、IABPで原因を解決する、治療するということはありません。
もちろん、IABPで一時的に補助することで自己の心臓が元気になることもありますが、ほとんどは循環が悪くなった時の「一時凌ぎ」や、術後でまだ完全に元気になっていない心臓の「補助輪」として使われます。
しかし、循環が不安定という理由でなんでもかんでもIABPを導入することも、実は推奨されていません。
日本循環器学会の急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)でも
「心原性ショック患者に対する『ルーチン』のIABPは推奨されない」
と明記されています。
もちろん有用として推奨されている場合もありますので、どのような状況で有用か、そうではないのかは上記ガイドラインを見て確認してみてください。
IABPは原理的には間違いなく有効であると考えらていますが、面白いことにこれを100%証明する結果は未だに出ていません。
有効ではない、という報告も存在します。
特にインパクトがあったのが、2012年に発表された「IABP SHOCK II試験」という報告です。
この報告では、
(心原性ショックを合併したAMIで,早期血行再建術が予定されている患者では)
IABPを使っていても、使っていなくても予後には有意差がない
と結論付けられています。
しかし、その対象範囲やIABPの導入時期、導入基準などには疑問の余地があったこともあり、医療の現場でIABPは根強く支持されています。
「IABP SHOCK II試験」の原文は英語ですが、とても有名な報告なため日本語の要約も存在します。
循環器トライアルデータベース様でとても分かり易く要約されていますので、気になるけど英語が苦手という方はこちらをご覧ください。
→循環器トライアルデータベース「IABP-SHOCK II」
まとめると
つまり、IABPは…
・下行大動脈に留置するバルーンで収縮と拡張を繰り返すことで、補助効果を得る、補助循環装置
・その補助効果は10〜15%
・IABPの補助効果を得るためには、収縮と拡張のタイミングが重要
と言うことですね!
その通りだね!
ちなみに、IABPのことを大動脈バルーンパンピングを略して「バルパン」と言う人もいるから、覚えておいた方が良いかもね!
また分からないことがあれば遠慮なく聞いてね!
分かりました!
ありがとうございます。