- 「体外式膜型人工肺」に関する基準値
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ドクター先生!
「体外式膜型人工肺」ってなんのことでしょうか?
体外式膜型人工肺は、
心臓や肺の機能を補助する装置
のことだよ!
心臓や肺の機能が「命に関わるレベル」まで低下した患者さんに使用される装置なんだ。
一般的には「ECMO」と呼ばれているね!
そうなんですね!
どういった原理で心臓と肺を補助するんでしょうか?
まず大量の血液をチューブを介して外部に取り出すんだ。
そのあと、「遠心ポンプ」と言う心臓の代わりをする装置と、「人工肺」と言う肺の代わりをする装置を通った後に、血液を体に返すんだよ。
「遠心ポンプ」が心臓の、「人工肺」が肺の代わりをしているんですね!
あれ、でもそれってたまに聞く「PCPS」ってやつとは違うんですか?
体外式膜型人工肺(ECMO)のことを日本では「PCPS」って言っているんだ!
でも、体外式膜型人工肺(ECMO)の種類によってはPCPSとは全く違う治療だから、注意が必要だよ。
そういった微妙な言葉の違いも含めて、詳しくみていこうか!
体外式膜型人工肺(ECMO)とは?
体外式膜型人工肺は一般的には「ECMO」と呼ばれています。
ECMOは「Extra-Corporeal Membrane Oxygenation」の頭文字を取ったものです。
これだけだと「なんのこっちゃ」となってしまうので、簡単に訳すと
「体の外で(extra-corporeal)」
「膜を使って(membrane)」
「血液に酸素を加える(oxygenation)」
という意味になります。
一度血液を体外に取り出して酸素を加えて、再び体内に返すことが治療の基本的原理です。
患者自身の心臓や肺が「もう無理!生命を維持できない〜!」となった時に、 ECMOを導入することで循環を維持して、救命できる可能性があります。
しかし、体外式膜型人工肺(ECMO)は心臓や肺を治すための魔法の道具というわけではなく、あくまで
「心臓、肺が機能を果たせない間の代替装置」
ですので、そこは勘違いしないようにしましょう。
体外式膜型人工肺(ECMO)の原理
体外式膜型人工肺(ECMO)の意味がわかったところで、簡単な原理を理解していきましょう。
体外式膜型人工肺(ECMO)は、心臓や肺の機能が低下したより、命に関わる可能性があると判断された場合に用いられる「補助循環装置」の一つとして知られています。
心臓の機能のおおよそ80〜100%を補助することが可能です。
心臓の力が20%以下に落ちたとしても、全身に血液を届けて酸素を供給できるということですね。
ざっくりとした原理は、以下の通りです。
①体内から大量の血液を抜く
②肺の機能を代行する装置で血液に酸素を加え、二酸化炭素を排出する
③心臓の機能を代行する装置で、抜き取った血液を全身に送り出す
体から大量の血液を抜き出す工程を「脱血」と言い、逆に全身に送り出す工程を「送血」と言います。
脱血や送血は「カニューレ」という管のような道具を、皮膚から血管の中に挿入して行います。
検診などで針を刺して血液を採取する、いわゆる「採血」をした経験があると思いますが、その針がすごく太い版だとイメージして頂けると分かりやすいでしょう。
体外式膜型人工肺(ECMO)はこの「カニューレ」と「人工肺」、そして「遠心ポンプ」で構成されます。
カニューレを介して体から脱血された血液は、まず遠心ポンプにより圧力と言う形でエネルギーを与えられます。
遠心ポンプは心臓の代わりをしている、といった方が想像しやすいかも知れません。
その後、人工肺を経由することで血液に酸素を付加し、二酸化炭素を排出します。
一連の原理としては、肺が静脈血を動脈血に変換する原理と同じです。
体外式膜型人工肺(ECMO)における一連の流れと構成は、心臓手術で使用される「人工心肺装置」とほぼ同様です。
しかし、人工心肺装置には存在する「リザーバ」と言う血液を貯めることができる物品がPCPSには存在しません。
血液を貯める「リザーバ」は、体を循環する血液の量を調節できるという大きな利点がありますが、血液の流れが淀んでしまい、血栓形成の原因にもなります。
血栓は心筋梗塞や脳梗塞の原因になるだけではなく、人工肺の寿命にも影響を与えるため、長期的な利用を想定した体外式膜型人工肺(ECMO)にはリザーバは用いられていません。
体外式膜型人工肺(ECMO)の構成物品
構成物品 | 使用用途 |
カニューレ | 脱血もしくは、送血するための管状の物品。 皮膚から血管に向かって挿入される。 |
人工肺 | 脱血した血液に酸素を加え、二酸化炭素を除去する物品。 遠心ポンプと送血管の間に設置される。 |
遠心ポンプ | 血液を送り出すためのポンプ。 遠心力を使用して力を生み出す。 PCPSにおいては、脱血にも関わる。 |
体外式膜型人工肺(ECMO)とPCPSの違いは?
体外式膜型人工肺(ECMO)と同じ意味で使用される言葉として「PCPS」と言うものがあります。
結論から言うと、体外式膜型人工肺(ECMO)とPCPSは同じものを指していると思って問題ありません。
しかし、体外式膜型人工肺(ECMO)には大きく2種類の方法があり、そのひとつはPCPSとは全く異なる治療のことを指す場合があるため、注意が必要です。
心臓と肺の両方を補助する目的として使用する体外式膜型人工肺(ECMO)を「V-A ECMO」といい、
肺の補助を目的に使用する体外式膜型人工肺(ECMO)を「V-V ECMO」と言います。
後者のV-V ECMOは日本でいうところのPCPSとは異なり、静脈から脱血した血液を酸素を加えて「静脈」に返します。
ここでの「V」は静脈のことを表し、「A」は動脈のことを指しており、脱血と送血の部位を表しています。
V-A ECMOであれば「静脈(V)脱血」+「動脈(A)送血」、
V-V ECMOであれば「静脈(V)脱血」+「静脈(V)送血」ということですね。
ほとんどの場合、ECMOはV-A ECMOを指していますので、PCPSと聞いた時には「あ、体外式膜型人工肺(ECMO)のことか」と思って問題ありません。
しかし、V-V ECMOはPCPS、V-A ECMOとは目的が異なる治療ですので、注意が必要です。
現場でのECMO、PCPSの呼称について
補助目的 | 呼び方 |
心臓の補助目的 もしくは 心臓と肺の両方 | PCPS もしくは ECMO もしくは V-A ECMO |
肺の補助目的 | V-V ECMO |
ひと昔前までは、ECMOはV-V ECMOのことを指し、PCPSはV-A ECMOのことを表していることが多かったですが、近年では世界標準に合わせて、VA-ECMOはPCPSもしくはECMO、V-A ECMOと呼び、V-V ECMOはそのまま呼称することが普及してきています。
ここ数年注目された、COVID-19による呼吸不全においての治療に用いられたECMOは、多くが後者のV-V ECMOを行っています。
COVID-19により酸素を取り込みづらくなってしまった肺に代わり、一時的に体外の膜型人工肺で肺の代わりをすることで、自己の肺を休めて回復を待つという目的で使用された形です。
今回は体外式膜型人工肺(V-A ECMO)の解説ですので、V-V ECMOの詳説については以下をご覧ください。
→医療での「V-V ECMO」について簡単に解説!
体外式膜型人工肺(ECMO)の適応
体外式膜型人工肺(ECMO)の適応は以下のようなものが挙げられます。
・心肺停止状態
・心原性ショック
・難治性心不全
・LOS(術後低心拍出症候群)
・薬剤抵抗性難治性不整脈
etc…
適応範囲が広いので省略しましたが、
「この疾患には体外式膜型人工肺(ECMO)!」と言った形で覚える必要はありません。
というより覚えない方がいいかも知れません。
体外式膜型人工肺(ECMO)は特定の疾患ではなく、
「このままでは循環を維持できないから、体外式膜型人工肺(ECMO)!」
という形で導入されることが多いためです。
適応となる疾患を覚えるというよりは、適応となる可能性がある状況を考えておく方が実践的です。
体外式膜型人工肺(ECMO)には多くの合併症や注意すべき点があり、管理には細心の注意を必要とします。
それらの管理や、ここの物品に関する個々の詳細は別途解説を設けますので、そちらを参照ください。
→ECMOの「人工肺」について
→ECMOの「カニューレ」について
→ECMOの「合併症」について
まとめると
・心臓、肺が機能を果たせない間の代替装置としての役割を持つ
・静脈から血液を取り出し、人工肺で酸素化したものを動脈に返す
・体外式膜型人工肺(ECMO)は「V-A ECMO」、「PCPS」と同義
ということですね!
その通りだね!
でもECMOはとても奥が深いので、業務で関わることがあるならもっと深掘りしたほうがいいよ。
分かりました!
また色々教えてください。